Wring that Neck

DVDで観た映画の感想

アルゼンチンババア

 堀北真希目当てで観賞・・・なのですが、主役は鈴木京香と役所広司だと思い込んでました。「助演なのに出まくりだなぁ。」と思ってたら主人公は堀北真希の方なんですな。いや、失礼しました。
 原作は村上春樹に次ぐ国際的ベストセラー作家よしもとばなな。この人の小説は一編も読んだ事が無いのですが、この映画が原作の魅力を殆んど引き出せていない事はなんとなく想像が付きます。作風として知られる少女漫画的でファンタジックな空気感は上手く再現されずリアルに寄り過ぎていますし、脚本の出来も酷いです。コメディー・タッチで癒し系な大人のメルヘンを狙ってますが全ての要素が微妙。はっきりいって豪華キャストを集めただけの作品です。だから原作ファンも一般の映画ファンもしょんぼりでしょうが、堀北真希は可愛らしく撮れているのでマピールさんは満足です。

 昨今の日本映画を象徴するような駄目っぷりが光る本作ですが、最大の疑問点はアルゼンチンババアの演出。妻に先立たれ壊れてしまった父親が町中から白い目で見られるキチガイババアの家に住み着いて・・・という話でありながら、肝心のババアの中身が普通のおばさんなのです。リアルとファンタジーの狭間の突飛な存在であるべきババアが行動も言動も常識の枠から殆んどはみ出さないでどーするのか。一応、「臭い」という台詞はあるもののゴミ屋敷じゃなく猫屋敷だし、見た目には不潔には見えず中盤以降は臭い演出も皆無。アルゼンチン帰りの異文化人ってだけで、白髪頭とはいえ普段の鈴木京香と変わらないルックスでは、役所広司の死んだ妻・手塚理美や妹・森下愛子の方がよっぽどババアなので話が成立しません。
 更に根本的な問題として、全てのキャラクターの心情描写が拙過ぎるというのがあります。主人公と無責任に失踪した父あるいは父を奪ったババアとの決着にしろ、壊れるほど妻を愛した男の顛末にしろ納得のいく展開とは言い難く、その他の対立と和解も安易にイベントが消化されるだけで心境の変化がまるで伝わりません。マッサージ師の件に代表されるような掘り下げるなり切り捨てるなりしたい中途半端なエピソードがやたら目に付き、娘主観の物語なのに主人公抜きで話が進む事も多いので、最低限押さえるべき主人公の感情の流れすら曖昧になってます。これじゃ共感できないし感動に結びつきません。

 そんなこんなで厳しい出来の作品ですが、役者が良いので若干のストレスを常に受けながらも最後まで力押しでもってかれちゃう感じです。役所広司も鈴木京香もまともな世界から少し飛び出したヘンテコなキャラを監督の意図通りに見事に演じております。この二人は色々な役柄を柔軟にこなすんですが妙な演出にも素直に従っちゃうのが欠点で、日本を代表する映画スターのわりに駄作率が高いのがなんとも。今回も良い演技なんですけど・・・。
 で、堀北真希。彼女のシーンだけ殆んどアイドル映画なカット割りで笑ってしまうんですが、時にコミカルに時に痛々しく周囲に振り回されっぱなしの少女を好演。設定上、笑顔は終盤までオアズケですが、睨んだり困ったり驚いたりと様々な表情が楽しめてファン納得の映像満載です。なんというか、背筋のシャンとしたところがマピールさんはお気に入り。
 あと美術と音楽も結構好み。牧場の草原に建つアルゼンチンビルの色使いや異国情緒な内装とか小物類とか刺繍とかが良い雰囲気を醸し出しております。そこに流れるバンドネオンのアルゼンチン・タンゴも程好くマッチしてます。ただ、そこに住みついてる猫達が思いっきり「日本」していて溶け込めてないのが惜しい。それに比べイルカの造形が酷いです。なんであんなに安っぽいのか。

アルゼンチンババアアルゼンチンババア
(2007/10/03)
役所広司; 堀北真希; 鈴木京香堀北真希

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アイ・アム・レジェンド

 古典SF『地球最後の男』のリメイク。SFファンなら原作は必読書だし映画化も今回が3度目って事でネタバレでもなんでもないんで書きますが、公開時に近未来サバイバル超大作風のTVスポットを盛んに流してたこの作品、実は亜流のゾンビ映画です。宇宙人だろうがロボットだろうがぶん殴って世界を救ってきた男ウィル・スミスの今回のお相手はミュータントなのですが、アクションよりもホラー色が断然強い作品です。それを徹底的に隠す宣伝戦略が当たり洋画では久々の大ヒット。まあ、姑息な手段であろうと中身が優れていれば問題ないのですが、SFホラーとしても失敗作なのが洒落になりません。何かの間違いで人類存亡の危機という話なのに、何かの間違いで映画自体がとんでもない事になっているのでした。

 失敗作といっても決してつまらない訳ではないのです。ホラーといっても設定的に犠牲者不足なのでスプラッターにはなりませんし、思わせぶりな謎と特殊状況の緊迫感で全く退屈しません。背景となる荒廃マンハッタンの細部描写も凝っていて現実との比較が楽しく、ブロードウェイでインパラを狩り、セントラル・パークでトウモロコシを獲り、SR-71の翼上からゴルフと、終末感を薄くしたのが功を奏し空想力を喚起する画になってます。燃料や水を確保しライフラインを維持する様子などサバイバル要素をもう少し強めて欲しかったとは思うものの、独り占めのニューヨークで愛犬を相棒にそれなりに暮らす姿や孤独な日常・外敵の恐怖などは巧みに描かれてたと思います。CMで強調された「たった一人だけ生き残った男と犬の感動物語」部分は合格点です。
 一方で、回想として挟まれるディザスター・パートは群集映像とかは凄いもののディテールが甘く残念。選別・避難誘導・封鎖とどれも出鱈目だし、媒介になる犬を平然と飼い続け更に持出しOKとかありえません。研究の最先端にいる主人公を最前線に残すなんて事を国家が許可するわけもないですし。

 それでも最初の1時間は素晴らしいのですよ、最初の1時間は。そこから最後までの40分で「スタッフ総取替?」と思うほどに伏線無視で穴だらけの散漫脚本に急旋回するのです。積み上げた評価を台無しにしてお釣りがくる展開は、テーマらしいテーマも無く当たり前すぎる陳腐な結末に強引に着地。誰が観たって不自然な幕切れです。元凶が完成直前にリテイクされたエンディングなのは間違いありません。
 買って無いんですが市販DVD特典の真・エンディングはたぶんコチラで見れる物と思います。これだと放置された数々の伏線はちゃんと回収され、序盤で子連れライオンを見逃すシーンも意味を増しますね。主人公が「グラウンド・ゼロ」を連呼するのも合点がいきます。テーマは「9.11とアメリカの正義」って事ですよね。そのテーマで撮っておいてあの公開版エンドだと主張が逆転してると思うのですが、臆面もなく差し替えてるのが呆れます。
 それに撮り直しの7分程度だけじゃ説明がつかない唐突な急展開はそもそものシナリオも完成度が低かったと判断せざるを得ません。夜中にヤケクソで大バトルってのが邪魔で、マネキンに話しかけるシーンで新展開に入る方が自然だと思うんですが。そこから疑心暗鬼による致命的ミスを発生させてラストに誘導するのは簡単な筈です。何れにせよ真・エンドだと「伝説」の意味が薄れるのが難なのです。公開エンドの「伝説」も曲解ですが。いやいや原題がオチそのものってのは厄介ですな。いっそ終戦を知らない日本兵的扱いのマッド・サイエン君が暴走の末に自滅して悪い意味で伝説の男とか・・・。
 あと、本来なら映像でカットバックすべき人類滅亡の様子を台詞で済ましてるのも手抜きにしか見えないです。尺に余裕があるんだからDVD特典のコミック版のようなエピソードを挿入し、「生存者の多くは自殺」とか「ミュータントの攻撃性は熱による錯乱」とか示して厚みを出すべきでした。設定が存在するって事は、たぶん、予算が尽きたんでしょうがね。

 かくして昨今のハリウッドSF大作の水準通りにビジュアルばかりでセンスが悪い駄作が完成。実に勿体無いです。なんにしてもシェパードの頑張りに感謝。犬がいてくれなかったらもっと酷い事になっていたに違いないですから。

アイ・アム・レジェンド 特別版(2枚組)アイ・アム・レジェンド 特別版(2枚組)
(2008/04/24)
ウィル・スミスアリーシー・ブラガ

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アポカリプト

 大航海時代の中米・ユカタン半島を舞台にマヤ文明末期の荒廃と未開人の受難を描いた歴史アクション・アドベンチャー(ただし、メル・ギブソン監督の脳内ファンタジー)。意図的に歴史的事実を無視してるのでそこは信じちゃ駄目です。冒頭から鮮血と内臓のヴァイオレンス描写連発なのでそっちも要注意。半端なく辛そうで痛そうな描写の数々です。でも、この無法映画を配給したのは子供達に夢を売る天下のディズニーなのでした。

 メル・ギブソンはじめ有名俳優は一切出ないしオール・マヤ語というのも興行戦略としてかなり勝負してるんですが、思想的にもかなりヤバイ映画です。もしも冒頭に「文明が征服される根本原因は内部からの崩壊である」という歴史学者ウィル・デュラントの言葉を引用して朝鮮併合前夜の大韓帝国の腐敗を日本人が映画化したら確実に国際問題レベルなわけですが、マヤ文明がスペイン人到達より500年も前に滅亡していて謎だらけなのをいい事にメル・ギブソン大暴走。時代設定とか神事の描写が殆んどアステカ文明なのをマヤ文明だと言い張って凶悪に描いてるんだから性質が悪いです。

 しかし、困った事に娯楽映画としてはかなり面白い。前半は人狩りに遭った部族が蹂躙される様を『世界残酷物語』ばりにいかがわしく嗜虐的に描き、後半は家族のために逃げて逃げて戦ってまた逃げる“走る男”ロナウジーニョ(仮名)と残忍な追撃部隊との壮絶なジャングルの死闘を描くノンストップ・アクション・スリラーとなっており、知力・体力・時の運のエキサイティングなチェイスに手に汗握らせられ長尺を全く意識させないまま最後まで突っ走ります。
 印象的だったのはご丁寧な説明書になってる壁画。捕虜となりピラミッドの都市に移送され何故だか青く塗られちゃった人たちが壁画で知る己が運命。役者は現地調達のメキシカンだそうですがこの時の絶望的な表情が最高でした。

 年齢を重ねるにつれ狂いっぷりに拍車がかかるメル・ギブソンには是非とも『バイオレンスジャック』とか『カラテ地獄変』とか実写で撮っていただきたいものです。

アポカリプトアポカリプト
(2007/11/21)
ルディ・ヤングブラッド

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アヒルと鴨のコインロッカー

 一回きりのサプライズが肝の作品なので、やはりそれを味わうのは原作小説が相応しいと考えますが、この映画は原作の雰囲気を壊さないようにかなり頑張ったと思います。最大の注目点は「文章では許されてもそれをそのまま映像でやっちゃうのは反則」という制約をどう処理するかなのですが、それはごくストレートなインチキをやらかしていて拍子抜けでした。しかし、思い切ってぎりぎり反則負けにならないタイミングに種明かしを持ってくる事で上手くバランスをとった事には感心しました。その結果、さらりとした語り口はそのままに、若干現実離れした立位置から時にコミカルに時に陰惨に最後は切なく悲しい青春物語を見事に再現。原作が大ネタのインパクトだけに頼った作品じゃないから成立した手段ではありますが。

 しかしながら、雰囲気を維持してるとはいえ終盤は端々で微妙に設定変更されており、それが結構癇に障るのも事実です。元々が初対面の隣人と本屋に広辞苑を奪いに行くような突拍子も無い話ではありますが、原作ではちゃんと筋を通してリアリティを保っていたものをわざわざぶち壊す謎演出。例えば、ペット殺しの男の「慌ててて気付かなかった&自分は使い走り」という主張が成り立たない映像になってる意図が理解できません。遺された二人の一年半が伝わるようなカットが無いのも不可思議。あと、主人公の片割れたるヒロインを単なる脇役に落とした弊害で説明不足になってる辺りも一工夫欲しかったです。ただ、コインロッカーの場面の改変は癒しになってて良い感じでした。

 細かい不満はあるものの、それを補って余りあるのがキャスティングの妙でして、原作イメージを損なわない的確な役作りで揃い踏みです。特異で複雑なキャラクターを巧みに演じ観客を魅了した瑛太と、のほほんとした雰囲気を保ちアウトサイダーとして絶妙の距離感で浮いて見せた濱田岳のコンビは見事でした。表情を変化させない大塚寧々が最後に見せる笑顔も印象的。関めぐみと松田龍平は重要な役割をきっちり演じてるわりに存在感が薄くなってしまいちょっと損な役回りでしたね。
 あと、たぶん原作読者のメインはボブ・ディランに無縁な若い女性でしょうから、劇中で「神の声」と称される不思議な声を想像するのは難しい。その点においては、ちゃんとディランの歌声が流れる映画に分があるかと思います。

 ところで、こないだブータン王国初の総選挙があった為そのニュース映像を何度か見かけたわけですが、極端に日本人顔の人って確かに混ざってましたね。英語を普通に喋ってるのも確認できました。確かに英語ではアヒルも鴨も両方Duckなんですが、特に区別してないってのが本当ならやっぱりかなり大らかな国民性のような気がします。似ている筈の我々はアヒルと鴨の交配種も合鴨として明確に別けてるのに。

アヒルと鴨のコインロッカーアヒルと鴨のコインロッカー
(2008/01/25)
濱田岳、瑛太 他

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蒼き狼 地果て海尽きるまで

 オール・モンゴルロケが話題のアジアで最も偉大な王チンギス・ハーンの伝記映画。原作は森村誠一の『地果て海尽きるまで』なのですが、モンゴル統一後の拡大路線やフビライ等の継承者の活躍をカットしたため大人の事情で原作ではない井上靖『蒼き狼』の方にが近いかも。
 興収13億だから曲がりなりにもヒット作な筈ですが製作費を半分も回収できず。まあ、シニア向け歴史大作にしては妙に小粒なキャストですし、集客の要である若年女性層へのアピールを放棄している事から妥当な結果ではあります。でも、最初から角川春樹の趣味で採算を度外視して作った映画にしては驚異的なスクリーン数を確保してた辺りが笑えない。無論、興行の成否と作品の出来は無関係なのですが、キャストに比べかなりまともなスタッフが揃っていながらそっち方面も芳しくないのが泣けます。

 歴史大河がダイジェスト編集に成りがちな事を酌量しても脚本にメリハリがないのが辛いです。モンゴルの女達の目線でチンギスを描こうというアプローチなので正妻ボルテが中心になるべきなんですが映画では実に出が薄いのでバランスが悪いです。原作では創業期のチンギス躍進はボルテの部族がもたらした財力・先進技術と彼女の求心力・包容力を抜きには語れないし、チンギスに「二度と部族の女を敵の戦利品にさせない」と決意させる重要なキャラなんですが。そこが効果的に描かれないのは演じた菊川怜のせいというより脚本家の責任でしょう。彼女の起用自体も謎ではありますが。
 その弊害はチンギスにも及びます。女達に学んで覇業に邁進していく展開なのに母も妻も立派に見えないので彼も器の小さなダメ人間みたいでまるで魅力がありません。どうしてこんな男の元に人が集まるのか不思議でした。加えて戦場での活躍が殆んど無く、家臣は空気同然、理由も無く形勢逆転するなど武勇を示すドラマが弱いのも問題ですね。盟友ジャムカとの友情と確執にもっと焦点を当てるべきで、中途半端に息子や愛妾の話を混ぜたのは失敗だと思いました。戦闘シーンに変化が無くインターミッションの役割しか果たしてないのも苦笑。

 主人公・反町隆史は良い時は意外なほどハマってますが目を覆うほど酷い演技も混在し、津川雅彦・松方弘樹といった重鎮は顔見せ程度で助けにならず、若村麻由美が一人だけ頑張ってるという悲惨な状況。ほぼ全員がオーバーアクションな大根芝居になってる演出の意図が理解しかねるのですが、菊川怜の演技レベルに合わせる必要でもあったのでしょうか?いや、菊川さんは出番が少ないので決して足は引っ張ってないのですが・・・。
 それと、モンゴル人の映画なのに日本語をしゃべる事の違和感を批判するのは筋違いで、『敦煌』や『西遊記』、世界でも『トロイ』や『頭文字D』などで普通に行われてる事ですよね。それよりも若村さんだけ年をとって反町・菊川が若いまま(なのに創業期だけ子役起用)ってことの方がよっぽど気になりましたよ。

 苦言ばかり並べましたがモンゴルロケをやっただけの画はしっかり撮られてるんで、薄いドラマよりも壮大な草原と遊牧民の生活を愉しむのが吉です。男優たちがかなり頑張っていて様になっている騎馬のシーンも見所。なんやかや言っても往年の角川映画大作と同じで肩肘張らずに観てられる安定感があるのも売りです。あと、どうやって広大な版図を得たとかそれをどう統治したとかが曖昧になっているので、歴史好きの好奇心をくすぐって原作を手にとらせる可能性もあり、メディアミックス角川商法的には美味い造りなのかも。

蒼き狼 地果て海尽きるまで 通常版蒼き狼 地果て海尽きるまで 通常版
(2007/08/08)
反町隆史.菊川怜.若林麻由美.袴田吉彦.松山ケンイチ.Ara

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