Wring that Neck

DVDで観た映画の感想

河童のクゥと夏休み

 噂に違わぬ大変な力作で2時間18分という長さ以上に濃厚。アニメでありながら昔ながらの正統派日本映画の匂いがする作品で、評論家や映画通から高い支持が得られているのも納得でした。どちらかといえば大人ウケの作風ですが、『のび太の恐竜』や『E.T.』と通じる定番ストーリーなので当然子供も充分に楽しめると思います。河童たちが存在するものとして見事に描ききった世界をたっぷり堪能。個人的には地方民に理解されにくい東京郊外というポジションを上手く紹介してくれたのもツボでした。しかしこの作品、商業的にはファミリー・アニメにあるまじき大惨敗を喫し、観た人だけで大反響という不遇な現状なのです。

 リアル寄りで可愛さ低目のキャラデザ、児童文学ベースの地味な題材、魅力を伝え損なってるTVスポットなどなど敗因はプロモーション不足に尽きます。公民館の映画会で観るような真面目テイストに萌系美少女不在と来ればアニオタ方面の後押しは期待できず、そもそも動画クオリティ自体は低いためアニメファンの点が辛いなどもあり、『時かけ』のようなネット&口コミからのブレイクも不発。長く観続けらる作品となるかはレンタルとテレビ放送による認知度アップ次第ですが前途は多難と言えましょう。なんたって母親の心を掴む要素が弱いですから喰い付きが厳しいです。

 とにかく演出力が際立ってるのが特徴で、最初のうちは可愛く見えない造形の河童も地味で平凡な主人公も話が進むに連れ魅力的になっていきます。精巧なキャラ描写と人物配置の賜物。素直で礼儀正しい河童のクゥが好感度抜群で、暖かい家族たちのリアルな心理も丁寧に描かれます。特にこまっしゃくれた妹の感情表現と声の演技が秀逸。そして、アニメに助演男優賞の資格があれば総ナメにしたであろう飼い犬が唯一の人格者として華を添えます。小学校高学年の男子らしい女子との距離感も絶妙でした。

 「共存できない者との出会いと別れ」というメインストーリーは単純ですが、そこに環境問題・メディアスクラム・フィーバーする一般大衆・イジメ・動物虐待など多種多様な深いテーマがぎっしり詰め込まれています。流石に欲張り過ぎな感はありますが、それでも共感度を高めて引っ張り続けた豪腕ぶりに恐れ入りました。しかも何の結論も出してない話なのに投げっ放し感より考えさせる余韻の方が勝ってるのが偉いです。時にノスタルジックに時に容赦なく残酷に、逃げも揺さぶりも無く真っ向勝負のエピソード群に脱帽。ただ渾身のあまり、本来『トトロ』のようなハートフルなポジションに納まるべき作品の筈がテイストが結構へビィになってるのが・・・。安易に媚びない原恵一監督の姿勢は立派なんですがね。

河童のクゥと夏休み 【通常版】河童のクゥと夏休み 【通常版】
(2008/05/28)
冨澤風斗横川貴大

商品詳細を見る

キサラギ

 ネットを中心に一般客層に高く支持されブルーリボン賞作品賞も獲ってる作品なんですが、個人的には微妙。元ネタが一幕物舞台劇でジャンルが論理ミステリー・コメディというのは大好物なのですが、だからこそ気になる箇所が多すぎて自然と評価は辛めに。
 「掲示板で知り合った5人のアイドルヲタのそれぞれの情報からD級アイドルの死の真相に迫る」というプロットは悪くないんですが、『12人の優しい日本人』の縮小再生産という謗りは免れない出来。後出しの証言一発で状況が一変する辺りは生ぬるい『逆転裁判』です。
 ストーリーラインがしっかりしてるので一見良く練られた脚本に見えますが、伏線の使い方や話の膨らまし方に工夫が足りず肝心要の構成に緻密さを欠く造りになっています。何も考えずにボヤッと観てる分にはショートコント的な笑いと小気味良い会話劇で面白いんですが、ロジックものでそういう観方がお薦めってどーなのか。

 一番の問題は緩すぎるテンポ。ある程度の先読みをわざと促しておいてミスディレクションを誘う狙いにしては捻りが甘く、だらだらとコントを挟み観客に考えるゆとりを与え、かつ、あからさまな伏線を律儀に拾ってくれるので先の展開から5人目の処理までかなり早い段階で全て解けてしまいます。そして、劇中の人物達がそこに辿り着くまでのタイムラグにイラつくのです。安直な謎を勿体つけてもKOパンチに成り得ないんだから連打で一気に畳み掛けるべきだったと思います。
 そして折角の密室劇を壊すだけの無意味な冒頭シーン、強引に綺麗事へ誘導する星空の感傷シーン、エンディングのがっかりな二段オチなど、演劇を映画にするために足したと思われる辺りが全部余計なのも痛いです。下手な歌声の披露にとどめ5人のヲタ芸でさらりと終わっていればもっと好印象だったのに。

 全体に型に嵌り過ぎたオーバーアクションが気になるものの、キャラクターが立ってるためキャストに不満はありません。圧巻はなんといっても見事な怪演で魅せる香川照之。他のキャストが幅の無い演技で一杯一杯の中、独りメリハリをつけて単調にならないように盛り立てます。言い換えると香川さんが絡まないシーンはかなりグダグダって事なんですけどね。まあ、前半は便利に笑いに使われるだけの塚地武雅も後半はかなりの演技を見せてくれてます。小栗旬はイケメンでも強度のヲタはキモイ事を証明。でも狂言回し役は似合ってました。演出的にちょっとウザ過ぎる小出恵介にはもうちょっと見せ場が欲しく、ユースケ・サンタマリアは起用自体が殆んど出オチ扱いなのが・・・。

 結局のところ、セットやカメラワークも劇場中継レベルのアイデアしか無いし、演技派の役者を揃えて舞台で演じた方が完成度が高いんじゃないかという疑念が拭えないのでした。映画ならではの醍醐味の不足がとても残念。

キサラギ スタンダード・エディションキサラギ スタンダード・エディション
(2008/01/09)
香川照之、ユースケ・サンタマリア 他

商品詳細を見る

今宵、フィッツジェラルド劇場で

 冒頭のハードボイルドな空気を漂わせる胡散臭い保安係を見て直感的に『THE 有頂天ホテル』のホテル探偵を連想したんですが、話が進んだらむしろ『ラヂオの時間』と被る要素が多く驚きました。大人数キャストのアンサンブル・スタイルなのも三谷幸喜監督の作風と似てます。しかし、三谷のようにドタバタ喜劇を最後に一気に収斂させて行くわけでなく、最後まで淡々としたまったりコメディが静かに展開されるのでした。

 題材は、30数年の歴史に幕を下ろすことになっているミネソタの公開ラジオショウ。その最後の生放送を、普段通りのステージとして出演者たちが手際よくこなしていく様が描かれます。名調子の司会者によるローカルCMで繋ぐカントリー・ミュージックの平々凡々なショウ。交錯していくのは舞台裏でのそれぞれの思いと「死」と「人生」というキーワード。スパイスにはトラブル処理に奔走する探偵もどきと謎の女。

 でもストーリーは無いに等しいので、劇中のショウ自体を楽しめないとかなり苦しいかも。古き良きアメリカを彷彿させる、しかしカビの生えた様な形式の地味なステージですし、出演者は年寄りばかりで奏でる曲はカントリー。メリル・ストリープはじめ皆さん見事な歌唱力なのですが、『笑点』がヤングからそっぽ向かれるように、このショウも万人受けとはいかない種類のものです。いや、ティーンズ・アイドルのリンジー・ローハンをわざわざ起用してるんだから若い客もターゲットなのかもしれませんが。でも彼女の見せ場はちょっとしかなくて残念。それに、オリジナルの「Frankie & Johnny」の歌詞を知らないのも難点。

 個人的にはショウの内容に抵抗は無かったんですが、語学力の壁がいかんともしがたく。下ネタとかどのぐらい際どいのかよくわからないんでどうしても反応が寒くなってしまいました。楽屋での与太話も意味深な感じは伝わるんですが細かいニュアンスがピンと来ない。効果マンのユニークなアドリブとか動きによる笑いはちゃんとわかるのですが。まあ、雰囲気だけで持っていけるパワーがあるので、心地よく少しだけシニカルな味わいを堪能できました。

 これ日本版を作りませんかねぇ。『8時だョ!全員集合』世代としてはバッド・ジョークの二人は当然カト・けんで姉妹は小柳ルミ子と由紀さおり、歌える司会者は布施明でビッグ・ゲストが沢田研二なんてどうだろうかと、妄想が尽きません。(* ´∀`)ポワワ 。

今宵、フィッツジェラルド劇場で今宵、フィッツジェラルド劇場で
(2007/07/27)
ロバート・アルトマン

商品詳細を見る

グエムル -漢江の怪物-

 はっきり言いますがコイツは決して出来のいい映画ではありません。シリアスなモンスター・パニックかと思うと腹を抱えて笑わされるギャップの激しさ、「娘の救出」と「政府からの逃亡」というミッションが融合せず間延びする脚本、軍・警察・病院などの突拍子もなく稚拙な描写、どれも正直酷いです。しかし、それらを補って余りある掟破りの展開と異端独特の複雑な余韻。極めてオリジナリティに溢れる作品です。ズバリ超問題作。

 なんたって怪物シーンの演出が最高です。大きすぎず小さすぎず絶妙なサイズのリアルなCG。それを違和感無く群集とマッチングさせた画作りのセンス。躍動感溢れる怪物の疾走を捉える秀逸なカメラワーク。存在しない怪物と競演する役者陣の演技もパーフェクトです。特に白昼堂々の怪物初上陸は映画史に残る素晴らしさ。一瞬目を離すとそこにいる恐怖、圧倒的にパワフルな暴れっぷり、人を捕獲し容赦なく踊り食いにする戦慄の描写に大興奮です。
 だけど怪獣だけの映画じゃないです。この映画を傑作たらしめてるのは意表をつく定石外しの数々です。大統領も科学者も特殊部隊も活躍させず底辺のダメオヤジとその親兄弟に闘わせるユニークな構成。しかも、主役だけじゃなく家族一同ダメダメという型破り。更に不条理な社会のドタバタ追走劇が怪物放ったらかしで展開される意外性。シリアス・シーンの真っ最中に強引なギャグを挟み込み観客を笑わせておいて間髪いれずに凍りつかせるスピルバーグばりに悪質な手法も多用されます。
 加えて、どこまで意図的なのかわかりませんが韓国人の悪癖が上手く笑いになっていて、日本人にとっては『ここがヘンだよ韓国人』的に楽しめます。現代韓国風刺が強すぎて国辱モノなレベルなのに輸出に踏み切る勇気に感心しました。見当外れで不遜なコリアン・メンタリティが全開。自戒せず全部アメリカのせいで済ます臆面のなさが素敵です。
 ただ真面目に考えると韓国を笑ってる場合じゃないのですよ。水辺から現れ人をさらう怪物に主人公の主張をまともにとりあわない政府機関、いい加減なマスコミ、無関心な世論って図式はまさに「拉致問題」なんですから。ユルユルの展開に誤魔化されてますけど、さらわれる娘の視点で見ると強烈に悲惨な話ですし。

 一方で随所に見られるのがリアリティの無い描写。隔離施設をはじめ事件に対応する組織の無茶苦茶さはツッコミ所が満載ですし、対象年齢がそれほど低く無いだろうに「東映戦隊」並にオミットされる軍・警察も極めて不自然であります。で、偶に出て来るとすかたんな行動ばかりするから性質が悪いです。特にクライマックスのガス散布なんて閉鎖区域の中で反戦団体が集会中というありえない状況下で決行ですよ。しかも対人被害が増えるだけで米軍にメリットが見当たらない謎の作戦です。冒頭の怪物誕生エピソードもあまりのスケールが小ささに唖然とさせられますが、この部分は実際の事件を基にしてると聞いて呆然。何でそれであんなに幼稚なやり取りなんですか?
 ストーリーの方も、理不尽な出来事のはずが半分はバカの自業自得に擦り替ってしまう点や、バラバラだった家族がひとつに纏まるという話の割りにラストバトルでも信頼関係が怪しいままってのが演出上よろしくないと思います。炎をバックにジャージ姿のぺ・ドゥナ嬢は凛々しいですが。

 本作は玉石混交というか原石そのまんまみたいなモノなんで、トホホ感を楽しむ余裕のある人なら怪獣好きじゃなくても絶対お薦めですが、真面目な人に受け入れられるかはちょっと自信ないです。キネ旬でも高評価だから結構いけるのかもですが。確実にウケそうなのはネットに蔓延る嫌韓の皆さんなんですが、パクリの噂を信じて食わず嫌いしてるのか全然ブレイクして無いんですよね。勿体無い。これは彼等が待っていた映画だというのに。

グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション
ソン・ガンホ (2007/01/26)
ハピネット・ピクチャーズ

この商品の詳細を見る

嫌われ松子の一生

 中谷美紀、頑張り過ぎなまでの熱演です。いやはや、こんなに凄い女優さんだったとは。彼女抜きにはこの映画は考えられないです。監督のやりたいようにやり過ぎてる感の突拍子もない演出の数々を、恐らくは演技プランゼロで体現しております。もう、柴崎コウと区別がつかないとか言ってられないですねぇ。文句なしに主演女優賞級です。劇中の松子よりも役者・中谷を応援したくなる点が問題ですが。

 本作は『下妻物語』の中島哲也監督が贈る原色使い艶やかにポップでファッショナブルな「擬似昭和映画」であります。加えて日本では珍しく成功したミュージカル映画とも言えましょう。30年以上に及ぶヒロインの転落人生を、過剰なまでの映像で超スピードかつコンパクトに描いた監督の手腕は見事です。原作は未読なんですが間違いなく映画とはまるで違う雰囲気の作品のはずです。普通の人なら「寺島“the男で自滅”しのぶ」でも起用して鬱々に仕立て上げる筈の不幸話ですよね、たぶん。それが何故かハッピー・テイストのコメディになってるんだからビックリです。ストーリーの悲惨さと映像の派手さのギャップがかなりシュール。とんでもない力技です。

 だけど、この作品はハイレベルな失敗作だと思います。好き嫌いがくっきりと分かれる独自ワールドの部分が微妙に強すぎてギリギリのラインを踏み止まりきれなかった感じです。涙腺が緩むタイミングでギャグが炸裂するので「泣かせ」としてはストレスが溜まるし、でも「コメディ」として笑うにはブラックというよりダーク過ぎてキツイ。くどい程の片平なぎさネタをはじめ前半部分のハイテンションな小ネタ連発が散漫な印象を残しますし、黒沢あすか登場で中盤は落ち着くものの終盤で間延びと結構バランスが悪いのも気になりました。一歩間違えば大傑作だったと思うんですが実に惜しいです。面白いんだけど凄い疲れるんですよ、この映画。

嫌われ松子の一生 通常版 嫌われ松子の一生 通常版
中谷美紀 (2006/11/17)
アミューズソフトエンタテインメント

この商品の詳細を見る