Wring that Neck

DVDで観た映画の感想

善き人のためのソナタ

 最初から最後まで抑えた調子で語られるヒューマン・ドラマ。生粋の主義者が人間性に目覚めて云々のよくある話なんですが、社会主義国の冷徹で息詰まるような空気が見事に表現されており、それでいて結構クスクスと笑える描写が多いので程好く緊張感がほぐれるのがありがたかったです。終わり方もキレイで所謂映画通の人たちに異様なほど好評なのも納得です。

 舞台は東西冷戦末期、まだベルリンの壁が健在な1984年の東ドイツ。コカ・コーラとカール・ルイスの商業五輪の年です。アメリカ以上のメダル大国だった東独のボイコットを残念がりながら、超大国ソ連のパートナーとして知られ相応の発展を遂げていると信じていたあの頃。壁越えの話とかで殺伐としたイメージはあったものの、ゲルマン魂と律儀で勤勉な国民性の賜物で「社会主義の優等生」という枕詞で語られてた東ドイツ。ところが、その実態は諜報機関・秘密警察である国家保安省の作り上げた非人道的な相互監視国家だったのです。
 主人公は、この国家保安省の凄腕のプロフェッショナルである「大尉」。彼は下衆な大臣の命令で反体制的な劇作家のアパートを盗聴する無感情な介入者なのですが、やがて善意の介入者に変貌を遂げ劇作家の知らないところでこっそりと彼を守り続けることになります。この国家の機械から静かな支援者への変貌をわずかな人間臭さの増減で巧みに表現したウルリッヒ・ミューエの演技が凄かったです。ミューエ自身も監視下に置かれていた経験があるというから説得力も抜群。
 残念ながらウルリッヒ・ミューエは昨年7月に胃癌で急逝してしまいました。享年54歳。哀愁漂うこの人の姿をもっと観たかったです。

 完成度の高い作品ですが、主人公の変心のきっかけを捉えにくいのがちょっとだけ不満。ここをセリフでくどくど説明しちゃ台無しなのは解りますが、早い段階でスピーディーにシフトするので一時的に大尉の立ち位置を見失ってしまいました。
 それと、舞台女優の悲劇やサスペンス要素をもう少し煮詰めてくれたらという思いはあります。特にドイツ統一後の機密文書開示で国民の10人に1人以上が密告者と判った経緯を考えると、もっとドロドロした要素があっても良かったのでは。あのキレイすぎる結末には居心地の悪さと物足りなさを感じるのです。

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション善き人のためのソナタ スタンダード・エディション
(2007/08/03)
ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ 他

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陽気なギャングが地球を回す

 どんな嘘も見抜く男、正確な体内時計を持つ女、天才的なスリ、そして演説の達人。ロマン溢れる4人の銀行強盗チームの活躍を描く伊坂幸太郎のクライム・ノベルの映画化作品です。原作は読んでませんが、この映画が原作よりかなり劣化してることは充分に想像つきます。一言でいえば中途半端。

 ギャング達のキャラ設定は興味深いし、キャスティングも悪くないです。衣装もスタイリッシュに頑張ってるし台詞回しもユーモアに溢れ雰囲気はいいです。安っぽいCGアニメのカー・アクションも邦画の予算を考えれば許容できます。陽気でコミカルで荒唐無稽と面白そうな要素はたっぷり。でも、演出が絶望的にヘボ。
 例えば、常に時計が見れる状況で活動する鈴木京香は只の凄腕ドライバーにしか見えませんし、松田翔太のスリ能力が無くても強盗作戦は成り立つなど、特殊能力を充分に活用出来てません。大沢たかおの嘘発見能力が曖昧なのは嘘をはっきりと見破る描写が少なすぎるからです。これじゃ逆転のカタルシスが得られません。
 更に、観客が設定を理解してない序盤に伏線を貼ってるもんだから終盤の展開がわかりにくい事この上ないです。同じシークエンスを繰り返す銀行強盗シーンも退屈だし、計画通りの部分と偶発的要因がごちゃ混ぜなのも問題です。加えて間延びするだけで意味がないラブシーン。この映画に必要なのはロマンであってロマンスじゃない事をわかって欲しい。

 やっぱりね、この映画は原作ファンが怒ろうとも実写版ルパン三世で行くべきだったと思います。目指すべきはナンセンスでスラップスティックな痛快アクション。黒幕探しやトリックのようなミステリ要素なんて邪魔です。かなり強引な展開になっちゃっても「俺に嘘は通用しない!」で通る設定なんだから、もっともっとポップに弾けて突っ走らなきゃ。ストーリーそっちのけのキャラ重視で目一杯遊ぶべきなのに妙に小さくまとまってるんですよねぇ。見た目は美味そうでも全然物足りないです。
 しかし、佐藤浩市の演説男は最高。軽さといい大人気なさといいノリノリで気持ちいい。長台詞の数々を見事にこなすし語る内容も面白いです。彼だけは本来あるべきキャラクターを表現しています。いや、他の3人も演出が間違ってるだけで演技は見事にハマってるんですが。酷い映画ですがスタッフを変えて同キャストで続編作るなら見限れないかも。

陽気なギャングが地球を回す プレミアム・エディション 陽気なギャングが地球を回す プレミアム・エディション
大沢たかお (2006/10/25)
ジェネオン エンタテインメント

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ゆれる

 映画に「痛快」とか「感動」とか求める人には向きませんが、人間の内面をえぐる心理ドラマとして非常に良く出来ていました。西川美和監督の演出力が絶品でセンスの良さが随所に溢れてます。妙にドライで綺麗で独特の佇まいがある映画です。話の流れは簡単に予測できるんですが、わかっていても目が離せないスリリングな展開が圧巻。1人の女の転落事故から兄弟それぞれの想いが食い違っていく様をリアルに描き出します。観客に判断を委ねるラストの切り方も好み。

 主役のオダギリジョーもかなりの熱演で「成功者でお洒落で無自覚に嫌な奴」が嵌りすぎなのですが、役者的には香川照之に尽きる映画でした。余人をもって替え難いといっても過言じゃないです。罪の意識で錯乱気味なのか嫉妬心に身を任せたのか捉えどころのない人物を見事に演じます。自嘲にも弟への悪意にもとれる微妙な仕草や表情が素晴らしいです。それにしても兄・香川照之、弟・オダギリジョー、その父が伊武雅刀で伯父に蟹江敬三ってやたら濃い一族ですな。

 本当に見応えある映画なのですが、構成が論理的過ぎて若干面白みに欠ける気はしました。弟の記憶は「真実」、「事実誤認」、感傷から生み出された「偽の記憶」など色々と解釈できるようにもっと曖昧にした方が良かったんじゃないかと。
 あと、裁判モノとしてのリアリティがどうにもこうにも。被告の自白を唯一の証拠に立件してるのに、それを覆す証言をあっさり容認してどうするのか。その後、誘導尋問しかできなくなって漂う手詰まり感。『逆転裁判』のチュートリアル並にあっさり逆転されてる原告に萎え。とにかく検察側弁論が弱すぎで、嫌な検事を演じてる筈の木村祐一が只の馬鹿に見えます。DNA鑑定も詰めが甘いし、被害者の男関係も洗えてないみたいだし。そもそも、煩わしい事を避けてるっぽい弟クンが行きずりで中出しって設定もどーかと思いますが。
 そして、予算の都合があるんでしょうが、都会の成功者に憧憬する田舎者という構図を描くのにロケ地・山梨はいくらなんでもねぇ。そんな日帰り圏内の隣県で30近い大人の女が一大決心って・・・。

ゆれる ゆれる
オダギリジョー (2007/02/23)
バンダイビジュアル

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夢駆ける馬ドリーマー

 重度の骨折から復活しアメリカ競馬界を沸かした牝馬マライアズストームの実話にインスパイアされたとのこと。全く奇をてらわない直球ど真ん中感動モノに仕上がっておりますが脚色は派手。「ある日本の競馬漫画をモデルにした」といわれても納得しそうなくらいに。要するに、ほぼフィクションと考えても差し支えないってことです。

 劇中の牝馬はアメリカ最高峰ブリーダーズカップも狙える実力馬で、馬主の無理使いが祟りレース中に右前脚管骨を骨折。予後不良で安楽死と診断されながら治療を敢行、そして奇跡の復帰・・・日本で想起させられるのはサンエイサンキューですね。92年のオークス2着馬で同年の有馬記念で骨折した芦毛の牝馬です。常識外れのローテーションで次々と重賞に出走し、最後は騎乗すると骨が軋む音が聞こえるほど体調を崩しながらの強行出走だったという話、普通なら殺処分のところを馬主の強い要望で闘病生活に。ただし映画とは違い蹄葉炎を発症したサンエイサンキューは94年10月に天に召されます。
 安楽死処分が検討されるほどの重傷から復帰し活躍した馬もいますよ。代表的なのは96年の年度代表馬サクラローレル。95年に調教中の事故で両前脚深管骨折という大故障ながら翌年に天皇賞(春)と有馬記念を制覇。97年凱旋門賞を目指しフランスに渡ったほどの名馬です。残念ながら前哨戦のフォワ賞で右前脚屈腱不全断裂を発症、またもや安楽死されそうになりながらもしぶとく生き延び繁殖入り。現在はサクラセンチュリー等の活躍馬の父となり種牡馬としても成功しています。

 長々と日本馬の事例を挙げて何が言いたいかといいますと、これらの実際にあった凄い話に比べると映画の物語は演出不足が目立つのですよ。やたらと嘘っぽい。
 先ず、闘病生活の過酷さがあまりにも描かれてません。予後不良というのは衰弱死・ショック死へと至る可能性が高い故障と診断されたという事です。体重負担が他の脚に偏る事で蹄が壊死する蹄葉炎があり、胴を吊り上げて負担を軽くしても自重で床ずれを起こす危険があります。また苦痛から食が細くなって衰弱したり投薬の副作用で繁殖能力に悪影響が出たりするケースもあります。多大なコストに対し極めて生存率が低くリスクが大きいという事が劇中で巧く説明されて無いどころか、馬がアイス喰ってたりあっさり治癒したり凄く元気な様子ばかり。もう少し関係者が必死に世話する描写とかあってしかるべきですよ。
 完治後のシナリオも酷いです。前述したように復帰して大活躍というパターンは実際にありますが、流石に殆んどぶっつけ本番で国際G1勝利を目指す陣営は競馬を舐めてると思います。しかも牝馬限定戦じゃなく牡牝混合戦へ敢えて挑戦、出走直前に脚部不安再発、鞍上は現役に返り咲いたG1初挑戦の騎手、レース中には決定的不利・・・いくらなんでも盛り込み過ぎです。これじゃ実話を元にした意味が無いです。

 そんなこんなで競馬をに詳しいとイラッとさせられる与太話なのですが、基本的にジュニア向け映画なのでお家でお父さんが薀蓄たれながら親子で観るには良い作品だと思います。のどかなケンタッキーの風景も美しく、祖父から父、そして孫娘へと継承されていくスピリッツというベタだけど前向きな人間ドラマ。父が娘の作文を朗読するシーンとかグッときますし、馬と娘の交流シーンはどれもラブリーです。配役はダコタ・ファニング、カート・ラッセル、クリス・クリストファーソンの親子三代が完璧。やや見劣りするのは馬の演技(?)ですな。シーンごとに違う馬なのバレバレだし。
 ダコタ嬢はいつもの絶叫キャラじゃなくて、今回はハウス名作劇場のヒロインみたいな聡明で屈託の無い役でして感情表現は相変わらず半端じゃないです。ただ、生え変わりの時期の撮影で歯並びがガタガタなのは残念でした。

 ちょっと気になったのは邦題で、馬の名前がドリーマーみたいに見えること。本当の馬名はソーニャドールです。確かに意味はドリーマーという説明が劇中でありますが、原題の「ドリーマー」は主人公一家や厩舎スタッフにもかかってる言葉なのであまり良いタイトルではないと思いますよ。
 あと字幕があまり良くなくてカート・ラッセルが時々使う比喩が伝わりにくいです。吹替え推奨。

夢駆ける馬ドリーマー スペシャル・エディション 夢駆ける馬ドリーマー スペシャル・エディション
ダコタ・ファニング (2006/10/13)
角川エンタテインメント

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雪に願うこと

 ばんえい競馬に興味がある人や馬好きなら楽しめます。北海道だけで行われているこの特異な障害物レースの魅力をこの映画は存分に伝えてくれます。とにかく輓馬の強烈な巨大さが圧巻。体重にしてサラブレッドの約2倍。ずんぐりとマッチョな農耕馬です。それが500kgものソリに騎手を乗せ2箇所の障害を含む200mの直線コースで持久力とパワーを競います。白い鼻息、馬体から立ち昇る湯気、収縮する筋肉。凍てつく寒さの中、美しく愛らしい馬達に目は釘付けです。特にメインを張るウンリュウ号は、甘えたり怒ったり見事な役者っぷりを見せます。
 ばんえい競馬のルールや競馬場の観客の様子、レースでの騎手の駆け引きの醍醐味、調教風景などの裏方仕事の苦労、そして厳しい運営状態まで競馬関係者が伝えて欲しいポイントを網羅していて、素人目には地味に映るばんえい競馬を「見てみたいっ!」って気にさせる作りになっているのもいいです。

 ただし、馬に興味の無い人がドラマだけで楽しむとなるといささか心許ないです。ベテラン監督らしい小技の利いた撮影ですし、演出は申し分なく役者も上手い人ばかりで脚本にも無駄はないです。豪華すぎる客演に重要キャラかと惑わされる点を除けば何所を切っても良質な日本映画なのですが、「都会で挫折した男が廃用寸前の輓馬に己を重ね、つつましく生きる人々の姿や家族愛によって再生へ向かう」ってストーリーはどうしたって平凡です。下手に派手にされたら世界観が壊れるのは分りますが、泣かせや訴えかけのパンチが妙に軽いのはちょっと気になりました。
 主演の伊勢谷友介は、若くして事業を起こした都会人という役柄なので完全に他から浮き上がって見えるのは当然なんですが、意外と厩舎の肉体労働もそつなくこなすし周囲との軋轢も少ないなど人間味を出す機会が乏しいドラマ展開で損をしてます。でも、周りに諭されるのではなく自分で結論を出す展開がともすると自己中なまま成長してないように映るのは、この人がナルシスト系の役に嵌まり過ぎる事と無縁ではないでしょう。加えて、殴る蹴るだけど好感度の高い佐藤浩市とか、バカっぽいけど儲け役の山本浩司とか、賄い婦にしちゃ華がありすぎる小泉今日子とか脇が光りすぎ。競馬に人生を重ねる話なのに感情移入できるのはウンリュウ号ばかりで主人公の人生の行方とかどーでもよくなっちゃうんですよね。

 実際、ソフトバンクの支援でなんとか帯広単独開催に縮小で落ち着いたものの、依然ばんえい競馬は廃止の危機に晒されてます。現在の賞金で関係者の生活を支えるのは厳しいし、馬主を引き受ける人材も、好んで輓馬を生産する牧場も確保できないのは自明。立地的に集客が劇的に増えるとも考えにくいし、たぶんギャンブル性も薄い。スターホースの登場もまずありえないどころか、下手すると映画出演馬のある程度は既に馬刺しになってる可能性すらある。もはや産業としては終わっていて地方の文化遺産として保護して行くしかないように思えるのですよ。一競馬ファンのマピールさんも神様に助けてもらうための目印に願います。ばんえい競馬の関係者と馬たちが幸せでありますように。

雪に願うこと プレミアム・エディション 雪に願うこと プレミアム・エディション
伊勢谷友介 (2006/11/10)
ジェネオン エンタテインメント

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