「Wring that Neck」

DVDで観た映画の感想

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ノーカントリー

 現代アメリカの病理を憂いている様でもあり、そんな普遍的な話ではなくもっと斬新な解釈がある様にも思える、なんかよくわからないけど凄いバイオレンス映画。『2001年宇宙の旅』とか『惑星ソラリス』とか、理解できない部分が多々あるけど傑作という作品がたまにあるけどコイツもその類です。何度繰り返して観てもいわくありげの科白や含みの多すぎる挿話の数々を上手く捌き切れません。
 でも、ネイティヴならわかるであろうアカデミー賞的なメッセージとか、最後の保安官の夢の話の意味とかの小難しい事はとりあえず放っておいて、普通の理屈が通じないオカッパ頭の殺し屋アントン・シガーの強烈なキャラクターを楽しむだけでも全く損はしません。

 巨体で妙に濃い顔で苦痛にも無表情で稀に見せる笑顔が不気味。装備は音が特徴的な家畜屠殺用エアガンとサイレンサー付きのバカでかいショットガン。本当に死神を思わせるような理不尽な死の香りを纏ってて、やる事なす事が滅茶苦茶の自分ルールというおっかない御仁です。ハビエル・バルデムの噂に違わぬ怪演によってもたらされる緊張感にひたすら快哉なのでした。シガーのスピン・オフ映画を撮って欲しいぐらいです。
 バルデムの演技が突出しているものの、殺し屋に追われる側のジョシュ・ブローリンも好演を見せてます。危ない橋をクレバーに渡って大金を手に無事に帰還しながらも、人助けに現場に舞い戻ったため命を狙われる破目になる愚か者という面白い役で、設定がベトナム帰還兵なので戦闘力も高くやたら格好いい銃撃戦を披露します。
 この作品が一筋縄ではいかないのは二人を追う老保安官の存在。理解不能の犯罪の前に無力な正義の象徴として嘆き続ける傍観者でありながら、「昔は良かった」という安易な逃避を「今に始まった事じゃない」と全否定されるなど物語を難解にする方向で活躍。“宇宙人ジョーンズ”で御馴染みトミー・リー・ジョーンズが哀愁を漂わせる熱演です。前半は目立たないのに最終的には間違いなくこの男が主人公であり本作がサスペンスでもエンターテインメントでも無い事をガツンと知らしめます。

 問題は中盤までのフェイク的クライム・サスペンスが秀逸すぎるが故に、本来の社会派なテーマよりも逃亡者の行く末と金の行方に興味が向いてしまう事ですね。追跡劇にのめり込み期待を膨らましていた観客に容赦なく冷や水を浴びせる拍子抜け展開に唖然とさせられました。「人生は何が起きるかわからないし、起きた事は元には戻せない」という本作に横たわる思想をシンプルかつシニカルに打ち出した正しい着地点だけれども、強い困惑と後を引くモヤモヤ感は否めません。何度も言うように細かい意味を考えさせられ簡単に答えが出ない陰鬱な話なので、この結末は色々と途方にくれる事が倍増なのであります。
 
 コーエン兄弟の映画はコメディしか観てなくて、それもどちらかと言うと趣味に合わないものばかりだったのですが、今回はテクニカルな構成と独特の作風が興味深かったです。序盤こそ生々しい殺害シーンを見せ付けられるものの、話が進むに連れ繰り返しと相似を駆使する事で直接描写を省略し事後処理に留める演出を多用。しかもワンパターンに陥らないようにきっちりコントロールされ、時に映像以上の凄惨さを印象付け、時に観客の予想を裏切り、皮肉たっぷりにブラックな悲劇を盛り上げました。荒涼として徒労感に溢れる物語に相応しいテキサスの乾いた映像がまた見事。光線の使い方も効果的で、日差しの強さになんともビールが美味そうでした。これぐらい抑え目ならコーエン流のユーモアも悪くないですし。

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディションノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション
(2008/08/08)
トミー・リー・ジョーンズハビエル・バルデム

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天然コケッコー

 カントリーな中学生の健全初恋物語という普段なら先ず観ないジャンルの映画なのですが、日テレのふざけた賞を除く2007年の各映画賞で『それでもボクはやってない』と一騎打ちを演じたのが印象的だったのと、夏帆というジュニアアイドルの演技にもちょっと興味という事で拝見。原作が90年代の少女漫画って事ぐらいしか予備知識は無いし、夏帆についても[三井のリハウス]と[ピクサス三姉妹]のCMの娘という認識ぐらいしかないんですが。

 思春期の少女のセンシティヴな日常を瑞々しく捉えるというコンセプトが、心の歪んだ中年男たるマピールさんの感性に合わない為にやや苦戦。「やりたい盛りの健康な男子にとってはムラムラとしてもおかしくない誘惑が無数に転がってるこの状況で・・・」という男目線が、少女期特有のイノセントなほんわかジュブナイルに入り込むのを邪魔するのでありました。
 また、主人公カップルの親達の三角関係とか漫画少女とか郵便局員とかおそらくは原作できちんとフォローされてる設定が中途半端に提示され、しかし最終的にはとりたてて何も起こらない点がスッキリしません。小中学校合わせて7人しかいない村のわりに意外と簡単に市街地に繰り出せる様に見えるのも引っ掛かりました。なにかと選択肢の少ない過疎の村という設定が肝なだけに、なんか今時だと車で送迎されて塾とか通ったり町の子との交流が容易そうな環境というのは解せません。
 でも、全体的には少女漫画の持つどことなくファンタジックな世界観と実写映画のリアルな世界とのバランスが絶妙な子供達の物語になっていて、何気ないエピソードを淡々と羅列しているようでいて夫々に繊細な繋がりがある丹念な脚本なのでした。

 そして、このリリカルな空気感の再現を要求される難しい仕事を成し遂げた山下敦弘監督のセンスに脱帽。ドラマティック要素が殆んど無い物語なのですが、テクニカルな撮影の数々に目を瞠るものがあり全然飽きませんでした。計算されつくしたアングルやカット割り、特に窓を使って人物の視線を調整したり空間の切り分けと心情描写とをシンクロさせたりが実に巧み。島根の自然の移り変わりも美しく、緩やかな空気の広がりが伝わります。のんびりとしていて微笑ましく『恋空』の対極みたいな映画。とんでもないキスを披露する夏帆、僅かなシーンでも帽子で誤魔化さなかった岡田将生などもアレの真逆ですな。客層が被るのかどうかが興味深いのですが。
 子供達がメインの映画なので演技力という点では心許ない筈なんですが、どの子もオーバーアクトにならず田舎の子っぽく溶け込んで生き生き撮れておりました。これは演出の勝利でしょうね。特に夏帆のお下げ髪の嵌りっぷりは異常。未成熟な脚の太さもそれっぽいです。主観モノ作品であるが故に主人公に大きくかかる負担をものともせず、浮遊感と透明感を嫌みなく醸し出した演技にも目が釘づけでした。これが演出に助けられたものなのか、もう1作観てみたいですね。また、相手役の岡田将生が少女漫画世界と親和性の高いルックスなのが良いです。最後まで何を考えてるのかわからない感じで思春期の女の子を揺らす異性というポジションを上手に演じていました。実際にはエロい事とガキっぽい感情で大半が埋まってるというのが中坊の相場なんですけどね。

天然コケッコー天然コケッコー
(2007/12/21)
夏帆山下敦弘

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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

 永作博美が助演女優賞を獲りまくったので気になってた作品。タイトルからは全く内容の想像がつかないわけですが、両親の訃報を受け東京から帰省してきた自称女優の長女と閉塞したど田舎で暮らす妹・兄・兄嫁のドロドロの人間関係を描くブラック・コメディでした。予告編の印象から近頃流行りの漫画の実写化だと思ってたのですが原作は戯曲の模様。確かに極端にキャラクター重視で舞台劇っぽい造りの作品であります。でも、なんとなく岡崎京子の漫画的な性と暴力と死の匂いも感じました。真っ黒な笑いが満載なので観る人を選ぶ作品なのは間違いありません。

 とにかく、メインの4人が揃って素晴らしく驚きました。特に、サトエリ最高!!超自意識過剰でプライドが高くスタイル以外に取り柄の無い大根役者の勘違いバカ女を大熱演。佐藤江梨子以外に誰がこの主人公を演じられようかと思うほどピッタリと嵌っています。この強烈な腹立たしさは天賦の才という他ありません。そのサトエリに虐待されつつも静かに観察する妹役・佐津川愛美も複雑で味のあるメンヘルキャラを怪演。永瀬正敏は嫁にはDV男だけど姉妹には異常な気遣いを見せる兄というポジションで、振り切れた性格の女達の狭間で常識的感覚を持つが故の悲惨を体現します。この3人の負のオーラが実にいや~んな感じなのです。
 これだけだと絶望的に暗いだけの話になってしまうのですが、そこを前述の永作博美が大車輪の活躍でコメディに変換していきます。哀れでお人好しで甲斐甲斐しくも不器用でキュートだけど不気味で超ポジティブという、3人とは逆のベクトルに狂ったキャラで全体のバランスを見事に調整。これまた、最初から想定されてた配役のような完成度。サトエリは演出に助けられての好演ですがコッチは演技力のみで憑依レベルのサイコぶりなのです。なんだか若返ってるのも凄い。

 ただ、キャラが見事なわりに物語の運び方がイマイチで残念。90分程度に絞り込んで勢い任せに突っ走って欲しかったところです。時折発生する間延びのせいで変な人たちの変な話に過ぎない事を冷静に悟ってしまうし、伏線が丁寧すぎる事もあり先が読めてしまいます。ラストもクライマックスから直ぐにオチに繋げた方が蛇足感は少なかったでしょう。
 演出的には妹が描く漫画の絵柄を早い段階で見せすぎたように感じました。途中までは少女漫画風だと観客に思いこませておいた方がギャップがあって良いし、折角の眼鏡っ娘なんだからもっとネチネチと悲観的かつ自虐的な「いじめてちゃん」を強調しておいた方がサスペンスとして面白かったと思います。あの毒々しい画と内容が妹の狂気と腹黒さをストレートに伝えまくるし、怪奇漫画の禍々しさが実写で描かれる虐待描写に勝ちすぎてインパクトが薄れてしまいました。
 地獄の日々って程に精神的に追い詰められないのと同様に性的描写もマイルドで物足りません。サトエリの脱ぎっぷりの悪さはいつもの事ですが、別に脱がんでも甘美で淫靡な世界は表現可能な筈で、その辺りをもっとねっとりと描いて欲しかったです。永作はエロくちゃいけない役なんでこれはサトエリの仕事。設定的にも実の兄妹の方がインモラルでいいのに。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
(2008/02/22)
佐藤江梨子佐津川愛美

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恋空

 悪質で薄っぺらなトンデモ話と男中心のネット界隈では強烈な批判に晒される一方で、ほぼ女子学生だけで大ヒットを引き起こした脅威の純愛映画。ヒロインの新垣結衣や相手役の三浦春馬に超絶人気があるわけではなく本当にストーリーに感動している模様で、劇場公開中は目を赤くした小中学生が大量に吐き出されてくるのを何度も目撃しました。
 マピールさんは「酷い」と評判のものをわざわざ確認するタイプなので原作のケータイ小説もチェックしており、稚拙な箇条書きで無駄に長い会話や独白が延々と続くスタイルに辟易し速攻で斜め読みに切り替えたものの大筋は把握。在り来りで説得力の無い泣かせイベントが羅列される中で自己中のカップルが周りを振り回し続けるだけの実話ベースと言うならそれはそれで恥ずかしい物語でした。少女漫画ぐらいしか読んでないガキが妄想で捻り出した作り話にしか思えず何がウケてるのかサッパリ。モラル云々より文章力の面でこれをベストセラーにする少女らに性別や世代の差を超越した大きな隔たりを感じます。

 だがしかし、映画版スタッフの頑張りには惜しみない拍手を贈ります。煮ても焼いても食えそうに無い腹が立つだけの原作から渾身の努力で観客の理解を促す方向に舵をきり、これ以上弄ってマトモな話にしたら『恋空』じゃ無くなるギリギリまで力の限り改変。完成した作品は依然として悲劇てんこ盛りで展開は忙しく脈絡も無く常軌も逸してますが、昨今の過激な性描写や性的暴行シーンに溢れる少女まんが誌レベルのストーリーとなり、ツッコミどころ満載の愉快なバカ映画に生まれ変わりました。しかも、原作の持ってる魅力(それが何かは知らないけど)は失っておらず想定した客筋の琴線にちゃんとふれる様に作られてるのだから大したたまげたです。

 終盤の泣かせに反応できる奇特な人はそれでOK。そうでない人のバカ映画的見どころはなんたって新垣結衣の所属事務所による鉄壁ガードです。レイプやら妊娠やら盛り沢山で避妊の概念が全く無いこの映画で、キスは頬まで露出は肩までというご無体な縛り敢行。おかげでロマンスの欠片も無く初体験直後の情景に見えない完全着衣の珍妙ベッドシーンが完成です。更には、監督のセンスが強烈なクレーン撮影によるお花畑レイプ。無論、下着も見せず服も破けず直接描写も避けており屈辱も苦痛もまるで伝わって来ないばかりか笑いがこみ上げる必見の迷場面です。絵面は馬鹿だけど撮影自体は鮮やかなのがまた困りもので、画だけ切り出されたら誰も強姦シーンだと気付かないファンタスティックな仕上がりなのでした。
 その他、セカチューで長澤まさみが無駄にハードルを上げた難病患者役を頑なに帽子着用で押し通した三浦春馬、レディースにしか見えない香里奈、変な髪形と関西弁の小出恵介と、キャストは意外に健闘しつつ何かが間違ってる感じで、極めつけはヒロインの父・高橋ジョージのスゴイ芝居。友人関係ばかりで視野の狭さが強調されていた原作に、暖かい家族愛を持ち込んで未熟な少女期の恋とのバランスをとるアイデアも、ジョージのインパクトで全て台無し。出番は少ないのに出るたびに目が釘付けなのでした。

恋 空 スタンダード・エディション恋 空 スタンダード・エディション
(2008/04/25)
三浦春馬新垣結衣

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