「Wring that Neck」

DVDで観た映画の感想

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

父親たちの星条旗

 それぞれ単独の観賞に耐えるクオリティがあるイーストウッド監督の硫黄島二部作は日米双方の視点から描いた対の映画と宣伝されてますが、実は本作がジャブの連打で次作がフィニッシュ・ブローと考えられます。この二部作は露骨にイラク戦争批判でありメイン・ターゲットはあくまでも大義に熱狂した米国民(と、それを支持した国々)です。本作は「我々がやっているのはこういう事だ!」という強いメッセージであり、この後の『硫黄島からの手紙』で「そして、敵はこんな奴ら!」と畳み掛けてくるわけで、観賞の順番を逆にしちゃうとその辺がぼやけてしまうので注意。
 マピールさんは原作を読んでいたので気になりませんでしたが、色々な要因で混乱を生んでるようです。あと、戦争モノだと思ってたら大半がアメリカ本土が舞台で肩透かしされたって人も多い。だから、ちょっと解説。

 先ず理解して欲しいのは、この映画では硫黄島戦勝利に沸く中で行われた戦時国債販促キャンペーンツアーの模様を主に扱ってるって事。そこで資金集めの客寄せパンダにされたのが有名な星条旗掲揚写真の当事者、ジョン(ドク)、アイラ、レイニーの3人です。戦場シーンでは若き兵士達が続々出てきて区別がつきにくいのですが、この3人さえトレースできてれば問題ありません。断片的に戦闘の様子が描かれるだけで殆んどドラマはありませんから人物把握できなくても支障はないのです。前線は大変だって事だけわかればOK。
 そして、原作者が父親達の足跡を追う取材形式でありながら、国債ツアーの回想に登場する人物達が更に硫黄島戦をめまぐるしく回想するややこしい構成なので、史実を理解してないと時間軸が飛び交い難儀します。時系列を整理しておくと、硫黄島戦は終戦間近の1945年2月中旬からで、上陸5日目に星条旗を掲揚するも戦闘は両軍に大被害を出しつつ3月末まで続いています。3人が本国に呼び戻されるのは4月中旬で、国債ツアーは5月初旬から始まって終戦まで続きます。で、このツアーの裏で彼らの所属部隊は沖縄に転戦、熾烈な上陸作戦を継続中です。
 加えて混乱に拍車をかけるのが、国家が作り出し使い捨てる「英雄」たち三者三様の生涯が脚本家が欲張ったわけではないのに端からは詰め込みすぎに映る事です。特に戦争体験で酒に溺れるようになったネイティヴ・アメリカンなんて劇的過ぎですが、これは紛れもない事実です。描きたいのは前線と後方の意識差とプロパガンダの問題だと思うのですが、変えたり削ったり出来ないのが悩ましいです。

 そんなこんなで、実はこの映画では硫黄島で米軍がどんな作戦を採ってどんな苦難を乗り越えて勝利に導いたかは全く描かれません。スクリーンに映るのはまるで負け戦のような光景です。原作には存在する戦死した米兵達の英雄的行為は殆んどカットされ日本兵の残虐行為の直接描写もありません。件の星条旗を掲げた6人(+間違えられた1人)も特に活躍しないし、死ぬ者は見せ場も無くあっさり往きます。しかも、味方の誤射でやられる者までいる始末。まあ、全部事実なんですが。容赦ない描写でいかにもスピルバーグ的な殺戮現場に漂うイーストウッド流の無常観に息を呑みます。
 一方、3人の生き残りが借り出される国債パートは、まだ戦争継続中でありながら悪趣味なお祭り騒ぎが目白押し。実は戦果のない3人の「英雄」たちは精神的に孤立していきます。全米に戦勝気分を振り撒いた運命の写真は実は旗を取り替えた作業風景に過ぎませんし、国旗掲揚後も血みどろの死闘は続き多くの犠牲を強いられてます。彼らは「硫黄島の本当のヒーローは帰って来なかった男達」だと主張しますが、報道は事実を誤解あるいは歪曲し、国民はそれに熱狂し、国家はそれを広告塔として軍資金を捻り出して行く。このギャップが見事です。

 それにしても、国債ツアーのゴージャスなイベントの数々と硫黄島に展開される大量の米艦船群を見てしまうと、日本の国力との絶望的な差がよくわかります。東京大空襲も原爆投下も硫黄島制圧で可能になったわけで、あの星条旗写真が存在しなくても事実上ここで「詰み」だったとは思いますが、こっちが鉄も油も底をつき餓死者が続出する中で前線も銃後も一体で総力戦をしてたっていうのに、向こうは余力たっぷりなのに国債が売れないと戦争が継続できないとか言ってるんだから呆れますよ。アメリカで戦争をしてるのは今も昔も一部の人たちだけでその他は常に無責任なギャラリーなんですよね。そして今では日本人もそれと同じ立ち位置でサダム・フセインの像が倒れるのを眺めて勝利と勘違いして浮かれたり、時期尚早な復興支援を行なったり。色々とズーンと来ましたね。『硫黄島からの手紙』よりコッチのが堪えました。

父親たちの星条旗 期間限定版 父親たちの星条旗 期間限定版
ライアン・フィリップ (2007/05/03)
ワーナー・ホーム・ビデオ

この商品の詳細を見る
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mappil.blog65.fc2.com/tb.php/154-7227fff9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。